土台力教育開発センターの
歩み
Prologue
セルフ・リーダーシップを育む
土台力養成
教育は「どのような生徒にどのような教師が向き合うか」が占める割合が非常に大きいものです。生徒の生育環境や能力に依拠している面があり、どのような教師にめぐり遭うかに左右されてしまいます。ただし、それだけではありません。学校がどのような環境を作り、どのようなカリキュラムを作り、どのようにカリキュラムを回すかも大事な要素になってきます。「学力を上げる」ことを目標に教育を実践するのか、それとも「学力を上げ、さらに、主体的学習者として必要な素養を養う」ことを目標に教育を実践するかで大きな差が出ると考えています。
本校では2002年から教育目標として「セルフ・リーダーシップ(自ら情熱と主体性を持って行動し、目標を達成し、夢を実現する力)」を掲げ、主体性に重きを置いた教育を展開してきました。また、2009年にはセルフ・リーダーシップを育むための教育方針を「土台力(いつでも、どこでも、強く、たくましく、幸せに生きるために身につけておきたい力」と定義し、そのシンボルとして土台力の木をビジュアル化することで、東山教育の向かう道を定め様々な改革に取り組んできました。
2015年8月からは京都大学高等教育研究開発推進センターの山田剛史准教授(当時)にお力をお借りし、主体的学習を強化するプログラムを開発すべく委員会の設置検討を開始。翌年の2016年4月より学習力強化プロジェクト特別委員会』『を発足し、アクティブラーニングの充実を図ってきました。さらに、刻々と変化する社会に柔軟に対応し、強く、たくましく、幸せに生きるための力の養成に教員一丸となって取り組み発展させていくために『学習力強化プロジェクト特別委員会』を改め、2021年より『土台力教育開発センター』を発足させ、土台力養成の共有ビジョンのもと幅広い活動を継続展開しています。
昔からあるものの中に、いまでも取り入れるべきものが多数存在しています。その価値を再認識することで自ずと「やるべきこと」が見えてきます。人類の歴史を基に、長いスパンでPDCAを考える。その際、仏教の考え方を確認していきます。そうすることで「東山が行う教育」を胸を張って展開できる。そんな東山の「土台力習得方略」を紐解いていきましょう。
Chapter .1
学習力強化プロジェクト
特別委員会
2014年4月、下村博文氏(当時文部科学相)の中央教育審議会での「アクティブラーニング」の充実の提言後、2015年に入り全国の中高ではアクティブラーニングの情報が錯綜しました。以前より対話重視の体験型教員研修などを積極的に行ってきた本校でも、さらに外部研修に積極的に参加するなどして今後の取組みを模索し、京都大学高等教育研究開発推進センターの山田剛史准教授(当時)の協力のもと、主体的学習を強化するプログラムの開発委員会の設置検討を始めました。
そこで、まずは6項目
・能動的学習を意識した授業展開
・入試改革に伴う年間指導の見直しおよび実践
・宗教的情操教育の見直し
・中学修学旅行シラバス作成
・高校修学旅行シラバス作成
・ICT教育現状把握
に焦点を当て「ミドルアップダウン型組織」の編成を目指していきました。指示待ちが多くなる「トップダウン型組織」ではなく、部分最適に陥りやすい「ボトムアップ型組織」でもなく、組織的知識創造が可能な体制です。
そして2016年4月、トップと第一線教職員を巻き込むスパイラル変換プロセスを意識した組織構造を持つ『学習力強化プロジェクト特別委員会』を発足させたのです。
『学習力強化プロジェクト特別委員会』は副校長・校長代行を委員長とし、校長や山田剛史准教授にも参画いただくことで、本校の理念や教育目標を色濃く出せるように編成。委員会にはアクティブラーニングの充実を目的に運営を行う「アクティブラーニング検討WG」将来を見据えて長いスパンで主体性を磨くことを意識して運営を行う「アクティブトランジション検討WG」という2つの検討ワーキンググループを設置しました。特別委員会は企画・立案を行い、各ワーキンググループが実働に労力を割くという役割分担です。
初年度と2年目は1ヶ月に1度委員会を開催し、理念も含めて意見を出し合う機会を多く作りました。3年目以降は合理化を進めるため委員会開催は2ヶ月に1回とし、その分ワーキングの実務遂行を増やしていきました。また、年を重ねるごとに組織改編を行いながら、委員会メンバーや各WGの人数を変えて運営。結果的に、当初焦点を当てていた6項目にとどまらず、教育全般の幅広い改革の推進を担うことになりました。
アクティブラーニング検討WG
年間20回(5月・9月・11月)公開授業を行い、その振り返りとして年5回のアクティブラーニング協同勉強会の実施することを柱に活動してきました。
公開授業は原則1名の教員に対して2名のサポートを加えた計3名で授業実践を行います。3名は教科を超えた教員で構成し、アクティブラーニング協同勉強会のメンバーから2名以上が見学者として参加することで、4名以上の教員からアドバイスを受けられるように工夫しました。また、少しでも多くの教員に見学してもらいたいとの思いもあり、校内メールにて授業デザインの配信を実施してきました。
さらに、全体授業勉強会として、5月と11月の聖日音楽法要のあと、平常時の5限目にあたる13:15~14:05には全教員が1つの授業を見学します。通常授業だけでなく、SLPやICTも積極的に実施しています。2年目の2017年からは生徒の主体性を測ることを目的に作成した「授業見学ルーブリック」を作成。数値化し分析を重ねることで、授業改善の指標として活用しています。
協同勉強会は各教科原則2名以上の専任教員で構成し1年間の任期としました。発展効率化のために半増半減の手法を取り入れ2名のうち1名は必ず次年度も継続するようにした結果、スタートから3年間で半数以上の専任教員がメンバーを経験することになりました。また、「教員もアクティブ」のスローガンのもと、勉強会そのものもアクティブラーニングで行うこととし、毎回リフレクションシートを作成するなど実施して終わりにならない工夫を取り入れてきました。5年間の勉強会を通して多くの教職員が多岐に渡り語り合うことができたのは大きな収穫でした。
アクティブトランジション検討WG
アクティブトランジション検討ワーキングでは、トランジションを意識し、行事の目的の確認、入試改革を見据えた活動、アンケート調査等を実施してきました。
1年目の2016年には、振り返りの重要性を再認識し、本校オリジナルの「3年日記」を制作。1日の振り返りを人目を気にせず書くことが重要との視点から、教員への提出は求めないことを最初に決定しました。その上で、少しでも記入の助けになればとの思いで、書くことに悩んだときのヒント項目やイラスト化したチェック項目を記載することとしました。さらに、保護者も一緒に書いてもらえればより良いと考え、希望者に配付することにしました。
この3年日記の制作によって、本校オリジナル3大ツール「未来を築く10年カレンダー」「夢を叶える 生徒手帳」「歴史を創る 3年日記」が完成し、PDAにC(チェック)の部分が加わることにより、PDCAサイクルが完成することにもなりました。
さらに2016年以降の主な取り組みとして
・中1勉強合宿の実施目的の修正
・中3次での農村体験導入
・中3次の英語キャンプ(日帰り型)の導入
・高3次の医学部医学科面接対策講座におけるルーブリックの活用
・入学者(中1と高1)を対象としたアセスメント調査(7月)の実施
・高1生と高2生を対象にした脳科学オリンピックレクチャーの実施
・生徒の企画に対して支援を行う東山チャレンジの導入
・先輩が後輩にアドバイスを行う東山ブラザーライブラリの定例行事化
を行いました。
特に意識したのは、「教科外学習」「対人関係・課外活動」「キャリア意識」です。『どんな高校生が大学、社会で成長するのかー「学校と社会をつなぐ調査」からわかった伸びる高校生のタイプー』(溝上慎一 責任編集/京都大学高等教育研究開発推進センター・河合塾 編/学事出版)の中の「大学がいくら教育改革を進めても、主体的に学ぶ力、豊かな対人関係や活動性、高いキャリア意識を持たない学生は、十分に成長していない、できていないのではないかと理解されるような結果が示されてきました。
具体的に言えば、学び成長する学生は、そうでない学生に比べて、「教科外学習」「対人関係・課外活動」「キャリア意識」に大きな共感を持っています。社会への移行を見据えて、授業外にも視点を当て、どんな時代でも、どんな場所でも、強く、たくましく、幸せに生きることができるような教育を追求すべく、東山の教育のトランジションは進んできたのです。
Chapter .2
教育目標・方針と連動した
カリキュラムマップの作成
『学習力強化プロジェクト特別委員会』の設置から3年を過ぎると、アクティブラーニング協同勉強会の参加者は全教職員の6割を超えるようになりました。このタイミングで重視したいこととして、本校全教員による具体的教育目標の確立が挙がりました。本校が節目であった150周年を超え「変わらぬ一歩、新たな一歩」を歩み始める令和元年に「土台力の木の根の部分」をいま一度、深く考えることにしました。根の部分を整理することがカリキュラム・マネジメントの充実に繋がり、学習力強化に向けた大きな一歩を踏み出すことになる。そうして「土台力の木 New Version Project」がスタートしました。
さらに翌年2020年には具現化された土台力=「まなぶ力」「つながる力」「つくる力」をもとに、カリキュラム・マネジメントの充実に力を入れていくことになりました。2018年の学習指導要領改定に向けた答申では、学習指導要領で規定する教育活動(教育課程の編成対象)の「編成(P)」「実施(D)」「評価(C)」「改善(A)」のPDCAをまわすことが「カリキュラム・マネジメント」だと説明されています。
さらに、3つの側面として
1. 各教科等の教育内容を相互の関係で捉え、学校教育目標を踏まえた教科等横断的な視点で、その目標の達成に必要な教育の内容を組織的に配列していくこと
2. 教育内容と、教育活動に必要な人的・物的資源等を、地域等の外部の資源も含めて活用しながら効果的に組み合わせること。
3.教育内容の質の向上に向けて、子供たちの姿や地域の現状等に関する調査や各種データ等に基づき、教育課程を編成し、実施し、評価して改善を図る一連のPDCAサイクルを確立すること。
とも示されています。つまり、社会に開かれた教育課程の理念のもと、子供たちの資質・能力を育んでいくことが最重要課題だとされているのです。
本校ではこれら3側面を合わせ持ったカリキュラムのPDCAサイクルの確立=カリキュラム・マネジメントと定義し、教育目標(セルフ・リーダーシップ)と教育方針(土台力養成)のもと、教科等横断的な視点と共生(ともいき)の精神を含めて取り組むことにしました。カリキュラム・マネジメントの本校としての理解を終えた後、6つの制作方針を掲げてカリキュラムマップの作成に進んでいきました。
コロナ禍ではあったものの、より多くの視点から意見を取り入れる必要性があるため、学習力強化プロジェクト特別委員、アクティブラーニング検討ワーキンググループ及びアクティブトランジション検討ワーキンググループのメンバーに加え、生徒部関係者の一部、教務部関係者の一部、グローバル教育推進課の一部に参加を依頼し、Googleスプレッドシートを活用した協同作業など進行にも工夫しながら進んでいきました。
年間行事予定表に記載の行事に未掲載の準正課活動を加えた「準正課カリキュラムマップ」の分類については、2019年の「土台力の木 New Version Project」で策定した3つの力=「まなぶ力」「つながる力」「つくる力」に準ずる9つの中分類に対応させていくことを柱に進められました。進め方としては、書き出した行事の中から9つの力に最も当てはまるものを1つ選んで1をつけ、次に当てはまるものを2つ選んで2をつけ、分類していく方法を取りました。さらに、時期については3ヶ月ごとにまとめ、Ⅰ期を4月~6月、2期を7~9月、3期を10~12月、4期を1月~3月としました。
以上の分類により、カリキュラムマップの素材が揃ったところで、各ジャンルごとに10個程度の行事をピックアップして配列に注意しながら配置することで、行事プログラムを「東山土台力」を培う準正課カリキュラムマップとして可視化することができました。
教育目標と行事プログラムの可視化がなされたことで可能になるのが、カリキュラムの改良です。準正課カリキュラムの過不足やバランスなど課題を精査したうえで、正課カリキュラムと組み合わせながら、学びの構造をもとに土台力を培うためのカリキュラム編成の検討を継続して議論しています。
Chapter .3
土台力教育開発センター
2016年より運営を続けてきた『学習力強化プロジェクト特別委員会』は、年間5回のアクティブラーニング協同勉強会を核にしながら、アクティブラーニングの拡充を図るための企画決定機関として活動してきました。そして6年目を迎える2021年、それまでの取り組みをさらに発展・充実させるべく組織改編を行い発足したのが『土台力教育開発センター』です。
2019年に「土台力の木ver3」が完成したことで、卒業までに身に付けておきたい「まなぶ力」「つながる力」「つくる力」が可視化され、さらに2020年のカリキュラムマップによって指標が精査され、卒業生アンケートを用いて検証が可能になりました。「学習力を強化するために何をするか」から「いかにPDCAサイクルを持続的に回し続けることができるか」に委員会の意識が変わってきたことが『土台力教育開発センター』発足のきっかけとなっています。
目指したのは、学校の成長だけでなく、我々教職員それぞれも成長できる仕組み。個々が自らの成長の喜びを感じつつ、学校に貢献できるシステムの構築を目指しました。変更点はいくつかありますが、
組織体系としては
・ 委員会からセンターに名称変更する
・ 検討ワーキンググループを推進ワーキンググループに名称変更する
・ 2つのワーキンググループを4つのワーキンググループに拡大する
・ 各ワーキンググループにはリーダーに加えてサブリーダーを任命
・ 各ワーキンググループには若手教員にも加わってもらう
などがあります。以上をもとにセンター会議およびワーキンググループ会議は2ヶ月に1回を目安に運用を進めてきました。アクティブラーニング協同勉強会は継続深化し、「主体的、対話的で深い学びを得る授業案の作成」「生徒の目が輝く授業の実践」「学習評価方法・成果発表」の3つを軸に継続することとしました。公開授業に関しても「授業見学シート」と「授業見学ルーブリック」を活用することで、都度改善を続けています。
新設ワーキンググループである「グローバル教育推進ワーキンググループ」は、コロナ禍で受難が続くグローバル教育を盛り立てるために設置しました。制限下においても試行錯誤を重ね、2022年には中2で初めてワンデイ・イングリッシュキャンプを開催、高1エンパワーメントプログラムの実施、グローバル教育先進校の訪問見学などを行いました。2023年に入り制限が緩和されるなか、語学研修や英語キャンプなど新しい取り組みにも精力的にチャレンジを続けています。
もう一方の新設ワーキンググループである「教育IR(Institutional Research)推進ワーキンググループ」は、中学や高校ではまだまだ馴染みのない言葉ですが、多面的にデータを収集・蓄積・分析することで現状を詳細に把握し、教育活動等の課題を解決することで、学校経営に関する取り組みの改善を推進すべく設置しました。本校では2021年より中高新入生全員がChromebookを持つようになり、データの収集・蓄積・分析が格段に容易になりました。これまで実施してきた東山アセスメントや卒業生アンケートにとどまらず、スタディーパートナーや行事リフレクションもデジタルで行うことで、エビデンスベースでPDCAを格段に回しやすくなりました。
その他にも、2022年より新たな取り組みとして、各界で活躍されている東山OBの方々を生徒が直接訪問し、対話や体験を通して学びを深める「東山学縁」や、校長から全校生徒に対して2ヶ月に1度課題を出し、提出された解答を教職員有志で投票する「校長チャレンジ」など新企画が始動しています。そして、2023年には学校全体での学習状況調査も可能になり、学習方略に注目した分析も開始し始めました。
教育のPDCAを回し、改革を続けていく。土台力を共有ビジョンとし、チーム学習を重視した新組織体制を核とし、本校は学年・教科・分掌と協同し、共創的な対話を軸に学び続け、成長し続ける学校を、私たちは目指しています。
Forum
主体的な学び実践フォーラム
本校では2016年より『学習力強化プロジェクト特別委員会』が中心となり、外部の教育関係者を対象に行う研究会を毎年実施してきました。2021年までは毎年2~3月にかけ「アクティブラーニング実践研究会」と題し、1年間の取り組み報告やテーマを設けての交流会などを企画実施することで、学校の枠を超えた教育のアップデートを目指してきたのです。
2021年に『土台力教育開発センター』が発足してからは「主体的な学び実践フォーラム」と題して、他校とも連携しながらオンラインで開催。2022年は正課外での取り組み報告に加え、参加者同士の学びに視点を置き「深い学び」をテーマに教科ごとに授業探究ワークショップ(意見交換や授業討論)を開催しました。2023年も2024年1月27日(土)に企画していますので、ご希望の方は下記ボタンよりお申し込みください。